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大雨の感

                                        本会副会長 井 上  礼 之

 経営の意思決定をするとき、「振り子を両極に振る」べきだと常々心がけている。
皆が右だと言っているときは、左でモノを考えるのがトップの仕事。  
会社の渦のなかにいればいるほど、会社からできるだけ離れて身の丈を冷静に見つめ
てみることが大切である。

 議論が出て2つ、3つの意見が出たとき、それ以外の意見を考えたらどうなるだろう。
これを「第3の道」と呼んでいるが、特に修羅場のときには癖のように出てきた姿勢。
とは言え最後は腹をくくり「動物的な勘」で決めてきたことも多いのも事実である。

江戸時代中期(1716年頃)、肥前国佐賀鍋島藩藩士・山本常朝の武士としての心得に
ついて、「武士道」という用語で説明した書物『葉隠(はがくれ)』の中に、経営者
としての自分の思考、信念に少なからず影響を与えた印象的な記述があるのでご紹介
したい。

「大雨の感」。道中にわか雨にあい、濡れたくないと道を急いで走り、軒下などを通
ったとしても濡れることに変わりはない。
最初から腹をくくって濡れるのであれば、心に苦しみはない。どっちにしても濡れる
のだ。これはよろずにわたる心得である。

戦国時代の武士の「苦」に対する心構えを説いたものだが、急な降雨を例にあげ、いっ
たん腹をくくってしまえば、いくら雨に濡れようがなんともない。
要は、“いかなる変事もわが覚悟次第”、という意味。

「振り子を両極に振る」、常に「第3の道」を追い求める思考は、覚悟を決め、腹をくく
った経営でないと成り立ちません。
平易な表現だが“腹をくくる”、“わが覚悟次第”とは、まさに経営の真髄、醍醐味ではない
でしょうか。

 平時有事を問わず、常日頃から変化を読みとる感性、柔軟さを備えた上での覚悟を持った
信念で臨めば、いざというとき心は揺れない。
大雨はやはり苦手だが、判断、決断を迫られたときのタイミングを失しないためにも、強い
信念を持って、覚悟を決めておくことが、真の経営ができる要諦かもしれない。